新しい品質不具合が発生する理由は「品質リスクの見逃し」です。つまり、事前に新しい不具合の発生を予測できなかったためです。リスク抽出をしっかりと行い、前もって対応する仕組みがあれば、新しい不具合を防ぐことができる可能性が高まります。
リスク抽出のベースとなる考え方が1970年代に米国で生まれたHACCP(ハサップ)となります。日本では2021年6月1日から、原則としてすべての食品事業者に導入が義務化されました。HACCPの考え方は、前もってリスクの芽をつぶすことです。食品製造プロセスを上流から下流まで見渡し、生物的、化学的、および物理的な側面での危害がないか抜け漏れなく抽出する手法です。抽出したリスクについては、どのように管理するか、管理方法の軽重も考えて新しい不具合の発生を未然防止します。
HACCPの基礎となる考え方を一般衛生管理といいます。従業員の手洗い、手袋や帽子の着用など衛生状態をしっかりと良い状態に保つことで、菌(微生物)による汚染や異物(金属やパッキン、毛髪など)の混入などを防ぎます。飲食店や他の業態でも重要となりますが、食品製造は人が口にするものを製造するという他の業界にはない特徴があるため、より一層の徹底が求められます。
飲食店に比べてプロセスが複雑な食品製造においては、従業員(人)、作業手順(方法)、機械(設備)、原料や資材(材料)もより多岐にわたります。そのため、新しい不具合を防ぐには4M(人・方法・設備・材料)の変更点管理も重要です。新しい不具合は、このような変更点がきっかけで発生してしまうケースが多いためです。季節により変化する温度・湿度などの変化点管理も大切な視点です。
工程で使われるパッキンをシリコーン製からテフロン製に変えるケースを考えます。パッキンはシール性を保つことが目的ですが、必ずリスクも考えなければなりません。すなわち、熱源に近いところでも耐えられるか(耐熱性)、薬剤の使用に耐えられるか(耐薬品性)、摺動に耐えられるか(耐摩耗性)などが挙げられます。材質ごとの特徴を把握し、プラスの影響とマイナスのリスクの双方から考えることが重要です。
人材育成も重要です。とくに従業員や協力会社(アウトソース)を含めて、しっかりとした力量評価(スキル)をおこない管理することが、正しい作業を継続的に繰り返す上での基本となります。異常発見時の早期のレポートラインや会議体の構成も仕組みの1つで、万が一の不具合の被害拡大防止に非常に重要です。