健康経営増進ための仕組みづくり

健康経営の概念は、アメリカの臨床心理学者ロバート・H・ローゼン博士が1992年に提唱したのが始まりです。日本では2006年に特定非営利法人(NPO)健康経営研究会が設立され、同会が健康経営という言葉を日本で提唱し商標を登録しています。従って、言葉としては約20年前に誕生したものになります。

健康経営は2006年からの導入期、2015年からの普及期を経て、現在(2024年~)は深化期にあります。すなわち、現在は「ウェルビーイング=心身・社会的に満たされた幸福な状態」実現のための重要な位置づけで、世界的に最優先課題に位置づけられています。一方、日本ではまだ健康経営の考えや優先順位が低く、そこを疎かにしながら人材採用と離職を繰り返すという悪循環(負のループ)に陥っています。

健康経営は労働安全衛生法上の「労働衛生」というワードに紐づきます。製造業において「労働安全」は1910年代、すなわち100年以上前から意識として定着し始めています。工場法により「安全第一」というスローガンが導入され、食品の製造現場にも深く定着しています。危険予知の訓練やヒヤリハットの撲滅など、様々な取り組みがおこなわれています。

一方、労働衛生と労働安全の違いをしっかりと認識できていないケースを数多く耳にします。すなわち、従業員の安全配慮義務は安全対策をおこなえば完結していると考えられがちで、認識の誤りとなります。労働衛生は労働が原因で従業員が疾病にかかることを未然に防ぐことを目的としています。健康経営の増進から従業員の安全に配慮するという、全く異なるアプローチが必要となります。

健康経営が従業員の安心感の醸成につながり、信頼される企業活動のベースとなる時代がやって来ます。そして、健康経営増進のための仕組み作りの第一歩は、「正しい知識の理解」から始まります。

正しい知識の習得

労働衛生における仕組みづくりにはいくつかあります。まずは「労働衛生の五管理」の理解です。すなわち、①作業環境管理、②作業管理、③健康管理、④労働衛生教育、⑤労働衛生管理体制の5つです。

①作業環境管理は、作業環境に健康上のリスクがないかを評価し、リスクを基準値以下に下げる管理のことを言います。また、②作業管理は作業方法の改善や保護具の着用、作業手順の整備などでリスクを低減することを言います。③健康管理は定期健康診断や特殊健康診断により、従業員の健康状態を確認し、万が一健康に悪影響を及ぼしている場合には速やかに就業上の措置を検討し、労働環境の改善をおこないます。労働衛生においてはこれらについて正しい知識を持って、しっかりとPDCAを回すことが求められます。

労働安全衛生法で求められる管理項目としては、例えば次のようなものが挙げられます。①特定化学物質、②有機溶剤、③粉じん、④じん肺、⑤アスベスト(石綿)、⑥鉛中毒、⑦溶接ヒューム、⑧高気圧障害、⑨酸欠、⑩電離放射線、⑪騒音・振動、⑫受動喫煙、⑬個人用保護具、⑭局所排気装置、⑮熱中症予防対策、⑯腰痛防止、⑰健康診断、⑱メンタルヘルス、⑲ハラスメント、⑳VDT作業 などで、他にも多くの要素があります。

これら1つ1つに対して、労働環境に問題がないかリスクを見積もり、リスクがある場合にはどのようにリスクを低減するか検討する必要があります。そして、例えば作業環境測定による効果の確認が必要となります。正しい知識を持って仕組みを維持し継続的に守られることが、従業員の健康を守ることに繋がります。

現場に踏み込んだ伴走支援

多くの企業には産業医がいると思います。これは、労働安全衛生法で一定数以上の従業員を雇用する事業者に産業医の選定と配置が義務付けられているためです。

産業医は医師国家資格を有しており、配属された企業に所属しています。産業医は従業員の健康管理をおこない、必要に応じて就業上の措置をおこなうことが役割となります。つまり、病院の医師のように薬を処方して従業員の治療をおこなうのではなく、従業員の健康診断結果や就業状況を把握した上で、最も好ましいと考えられる就業上の措置を講じることが求められます。その上で、事業所の安全衛生委員会に出席し、診断指導することもあります。一方で、企業に雇われの身であることが、率直な意見を言いにくくし対応の遅れに繋がるケースも事実として存在します。

一方、労働衛生コンサルタントは企業には所属せずに外部の独立した立場から事業所を診断・指導します。また、労働衛生の五管理(①作業環境管理、②作業管理、③健康管理、④労働衛生教育、⑤労働衛生管理体制 )をベースとしたリスクアセスメントの専門家でもあります。すなわち、労働環境について実務ベースでリスクを見積り、リスク低減措置を講じるという意味では、産業医に比べて未然防止に強みがあるとも言えます。外部の独立した立場から事業所を診断・指導できることも、産業医にはない強みとなります。健康経営の実現に向けて、コンサルタントとしての長期的に伴走支援できることも特徴の1つです。

企業が従業員目線に立って健康リスクを減らそうとする姿勢は、従業員にも確実に伝わります。これが企業や職場に対する安心感と守られ感に繋がり、企業への信頼感にも繋がります。そして何より、大切な従業員の安全安心は、経営者にとって大きな喜びに繋がるのではないでしょうか。

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