HACCP導入コストの削減方法

食品業界の皆さん、HACCP(ハサップ)を導入したことでコストが増えて悩んでいませんか?特に2024年6月からは食に関わる全ての事業者に対してHACCP導入が義務化され、経営の負担になっていると感じている方が多いのではないでしょうか。今回はHACCP導入のための7原則12手順について説明した上で、コスト増の原因とコスト削減のための方法について解説します。

HACCP導入のための7つの原則

1.危害要因分析
食品の製造工程において、どのような危害が起こる可能性があるかを調べます。この危害には、例えば微生物汚染や異物の混入などがあります。

2.重要管理点(CCP)の特定
食品の安全を確保するために、製造工程で特に注意が必要な場所を見つけます。

3.管理基準の設定
どうやって食品の安全を保つか、具体的な基準を設定します。例えば、「温度を何度に保つ」という基準です。

4.モニタリング方法の確立
設定した基準をしっかりと守ることが出来ているか、定期的にチェックする方法を決めます。

5.是正措置の設定
もし監視で異常が見つかったらどうするか、すぐに取るべき措置を決めておきます。

6.検証手順の確立
HACCPが本当に効果があるかどうかを確認する手順を決めます。

7.記録の保持
全ての手順や異常などの記録をきちんと残します。これは後で確認するためです。

HACCP導入のための12の手順

1.HACCPチームの編成
食品の安全を守るためのチームを編成します。いろいろな分野の専門家が集まることが大切です。

2.製品記述の作成
製造する食品の特徴や製造方法を詳しく書き出します。

3.用途と消費者の想定
作った食品がどのように使われ、誰が食べるのかを考えます。

4.フローダイアグラムの作成
製品がどのように作られるかを図にして示します。

5.現場確認
図に描いた通りに現場がなっているか、実際に確認して正確かどうかチェックします。

6.危害要因分析の実施
原則1に従って、どこでどんな危険があるのか分析します。

7.CCPの確定
原則2に従い、特に重要な安全管理点を決めます。

8.管理基準の定義
原則3に基づき、具体的に守るべき基準を決めます。

9.モニタリングシステムの設定
原則4に基づいて、どうやって基準を守るか監視する方法を設定します。

10.是正措置の準備
原則5をもとに、異常があったときの対応策を準備します。

11.検証手順の確立
原則6に従い、HACCPの有効性を確認する手順を設定します。

12.文書と記録の管理
原則7の下で、全ての記録を整理して管理します。

このように、HACCPは食品を安全にするための「ルールと手順」がセットになっているのが特徴となります。

HACCPの基本目的を理解する

まず、HACCPの本質を再確認しましょう。HACCPとは、食品を製造するプロセスにおいて発生し得る危害を分析し、その危害をなくすために重要な管理ポイントを定める手法です。HACCP導入の目的は、お客様に安全安心な食品を提供し、製造プロセス全体の信頼性を確保することです。それではなぜコストが増えるのでしょうか?多くの場合、HACCPの導入計画の不具合が原因となっていることが多いです。つまり、目的から外れた管理方法を選択し、その結果として無駄なコストが発生しているのです。

目的と手段と混同しない

どのようにしてHACCPを効果的に活用できるのか、そのキーワードは「目的と手段を混同しない」ことです。以下のような誤解がないかチェックしてみましょう。

間違ったアプローチの例

・すべての工程に均等に手間とコストをかけてしまっている
・チェック箇所をむやみに増やして管理すること自体を目的としてしまっている
HACCPは、ただ単に管理ポイントを増やすことが目的ではありません。重要なのはリスクの高い工程を見極め、食品の安全性を確保するために必要な手段を選択することです。

コスト削減を実現する具体的なステップ

HACCPを活用してコスト削減を達成するための戦略をいくつか紹介します。

重要な工程を見極める

すべての工程を等しく管理するのではなく、危険性の高いプロセスを特定し、そこに資源を集中します。これは、工程全体を見渡した中でしっかりとリスク評価することで実現できます。
・特に危険な工程: 微生物の増殖が考えられる温度管理の必要な工程など。重点的に管理するためのポイントを考える
・リスクが低い工程: そこまで厳格な管理が必要でない工程。省略できる管理ポイントがないかもチェックする

自動化と効率化

技術を活用して管理を自動化することで人件費の削減が可能です。例えば、温度センサーや自動モニタリングシステムの導入により、常時人の目で確認する必要がなくなります。

スタッフ教育

スタッフがHACCPの本当の意義を理解し、自分たちの役割を認識することが大切です。目的を把握することで、スタッフはより効率的かつ効果的に作業にあたることができます。

定期的な効果検証と改善

導入後も、HACCPシステムが有効に機能しているかを定期的に検証し、必要に応じて改善を行います。
・結果のデータ分析: コスト削減率や発生した問題の傾向を分析
・こまめなフィードバックと改善策の実施

成功事例

東京食品株式会社(仮名)は、初めてHACCPを導入した際は全工程に過剰投資し、コストが増加してしまっていることが喫緊の課題でした。このことに危機感を感じた経営者は、すぐさまHACCP専門家にアドバイスを求め、コスト増加の要因を分析しました。HACCPの本質的な目的をしっかりと確認した上で、安全安心な品質を保証するためのプロセスを戦略的に見極めました。その結果、HACCP導入によるコストを年間1,000万円削減することに成功し、チェックにより管理ポイントも減少したため、従業員の残業時間も月平均10時間減少。人件費の大幅な削減にも成功しました。仕事とプライベートのメリハリがつくことで、従業員満足度も上昇。すべてのサイクルがプラスに循環することで、最適な経営実現を成し遂げることが出来ました。

まとめ

HACCPの導入は一見、コストがかかるように感じるかもしれません。しかし、目的と手段を明確に区別し、正しいリスク管理を行うことで、むしろコスト削減につながります。目的を失わず、適切な重点を置いて実践することで、食品の安全性だけでなく企業の競争力も向上します。また、飲食店との信頼関係を築き、より安心で高品質な食品を提供することで、お互いに利益をもたらし、良い関係を構築することが可能です。HACCPを有効に活用し、未来の食品業界を共に豊かにしていきましょう。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

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