味噌、醤油、納豆、漬物、ヨーグルトなどの発酵食品は、豊かな風味があり栄養価が高いという特徴があります。また、発酵により生成された乳酸、酪酸、アルコールなどの代謝物は他の微生物の増殖を抑制する働きがあるため、保存性が高まるのが特徴です。一方で、発酵食品は微生物の活動が複雑に影響するため、様々なリスクも存在します。今回は、発酵食品の製造におけるHACCP(危害分析重要管理点)導入とそのポイントついて解説します。
HACCPについて
HACCPとは、食品の安全性を確保するための国際的な手法です。製造工程に潜むリスクを分析して重要管理点(CCP)を特定し、それらをしっかり管理することを目的としています。特に発酵食品の製造では、微生物の活動による影響を受けやすいことから、安全性を確保するためにHACCPの導入が重要です。HACCP導入においては、生物的、化学的、および物理的危害要因の3つについてリスクを見積もる必要があります。1つ目の生物的危害要因としては、発酵に使用する微生物の他に、病原菌や腐敗菌が混入するリスクがあります。これらを防ぐためには、原材料の微生物汚染を徹底的に監視し、衛生的な製造環境を維持することが必要です。2つ目の化学的危害要因として、清掃や消毒に使用される化学薬品の残留や、重金属、抗生物質の混入などが挙げられます。これらの危害を防ぐには、使用する薬品の管理や設備の洗浄を厳格に行うことが求められます。物理的危害要因としては、金属片、ガラス片、またはプラスチック片などの異物混入リスクが挙げられます。原材料受入時や製造工程における異物確認を徹底することで、事故のリスクを下げることができます。
重要管理点(CCP)の特定と管理
発酵食品の製造工程においてCCPに設定すべき工程は、製品の種類、製造規模、使用する原材料によって異なります。一方、一般的には次の工程をCCPを設定する際の着眼点として考えます。1つ目は原材料の受入れ検査です。受入れ検査では、原材料の品質(微生物汚染、異物混入など)が規格に適合しているか確認します。原料段階での汚染は、製品の品質に直接影響するためCCPに設定し、事前に設定した品質基準を満たすかしっかり管理する必要があります。2つ目に、設備の洗浄や消毒工程です。微生物汚染のリスクを低減するためには清潔な状態で製造することが不可欠であり、物理的な洗浄(ブラッシングや高圧洗浄など)、薬剤洗浄(次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、過酸化水素など)、熱(蒸気や熱水など)による設備の洗浄・消毒が重要です。3つ目は発酵工程の管理です。発酵工程は、微生物の働きによって原材料が変化し、製品の風味や栄養価が形成される非常に重要な工程です。この工程において、温度、湿度、pH、水分活性、発酵時間、または微生物の種類など、様々な要因が製品の品質に影響します。特に、目的とする微生物発酵を確実に進めつつ、有害な微生物の増殖を抑制するには、発酵温度やpHの上下限値を設定し、その範囲内を厳密にコントロールする必要があります。4つ目に充填・包装工程の管理です。充填・包装工程は、発酵が完了した製品を外部環境から隔離し、お客様にお届けするための最終工程です。従って、微生物汚染、異物混入、または密封不良による品質低下や二次汚染を確実に防ぐ必要があります。このプロセスでは、無菌状態を維持することが非常に重要です。5つ目は最終製品の検査です。出荷前に微生物検査や官能検査を行い、製品の安全性と品質を総合的に評価します。お客様の安全・安心を守るための最終チェックであり、非常に重要な検査となります。
監視手順と改善策の整備
HACCPの有効性を高めるためには、監視手順と改善策の整備が不可欠です。監視とは、設定されたCCPの限界値が守られているか、継続的に確認することを指します。これは、設定したCCPが適切に機能しているかを確認し、万が一逸脱した場合に異常を早期に発見し、是正措置を講じる上で重要です。具体的には、温度記録、pH測定、微生物検査などを定期的に実施し、設定した条件を維持しているか確認します。もし許容範囲を逸脱した場合には、すぐに製造を停止し、原因調査と対策を講じることが重要です。監視結果を記録することは、HACCPシステムの有効性を証明し、改善に役立てる上で大切になります。
定期的な内部監査および外部監査
HACCPシステムが適切に機能しているかを確認するために、内部監査や外部監査を定期的に実施する必要があります。内部監査は自社のHACCPシステムが正しく機能しているか定期的に評価することを目的とした活動です。すなわち、設定したCCPが適切に機能しているか監視し、是正措置が有効に行われているかを確認します。また、システムの運用上の問題点や改善すべき点を早期に発見し、是正措置を講じます。さらに、食品衛生法などの法規制への適合性を確認し、監査を通じて従業員の食品安全意識を高めます。外部監査は第三者機関が企業のHACCPシステムを客観的に評価するものです。自社だけでは気づきにくい問題点を発見できる可能性があり、法規制への適合性を第三者機関から評価してもらうことで、法的なリスクの低減も期待できます。外部機関による評価は、お客様への信頼度を高める上でも有効となります。
発酵食品製造に特有な管理ポイント
発酵食品の製造においては、使用される微生物の多様性を理解することが極めて重要です。各発酵食品には特有の微生物が関与し、目的とする微生物が優位に生育するように温度、湿度、pHなど、様々な条件をコントロールすることが求められます。このバランスが崩れると別の微生物が優勢になり、意図しない変化を引き起こすおそれがあります。これが発酵食品製造に特有な管理ポイントであり、最も重要な点です。HACCPを効果的に導入するにはこれらの微生物について深く理解し、製品ごとに異なるHACCPシステムを構築する必要があります。また、発酵過程で新たなアレルゲンが生成される可能性も指摘されています。例えば、一部のチーズでは乳糖不耐症だけでなく、カゼイン(牛乳のタンパク質)に対するアレルギー反応を引き起こす可能性があります。これは、発酵過程でカゼインの構造が変化し、新たなアレルゲンとなるケースがあるためです。また、納豆菌が産生するポリ-γ-グルタミン酸という物質(納豆の粘り気を出す成分)も新たなアレルゲンとなる可能性があると知られています。
まとめ
このように、発酵食品の製造においては、微生物の多様性とその特性を深く理解することが不可欠です。HACCPの導入により、生物的、化学的、物理的危害要因を評価しCCPを設定することで、製品の安全性と品質を確保することができます。具体的には、原材料の受入れ検査や設備洗浄、発酵工程の管理、充填・包装時の無菌状態確保、最終的な品質検査などの厳密な管理が挙げられます。また、監視手順と定期的な内部監査および外部監査を実施し是正措置を講じることで、HACCPシステムの有効性を維持し続けることが重要です。これらの取り組みを徹底することで、お客様に信頼される安全な発酵食品を提供することが可能となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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