食品工場におけるゾーニングの重要性

ゾーニングとは、食品工場の衛生管理を目的として「区画分け」をおこなうことを意味します。区画分けをすることで、工場内のエリアごとに適切な衛生管理や防虫対策をおこなうことができるため、衛生面の強化と管理のしやすさの双方にメリットがあります。今回は、食品工場のゾーニングについて解説したいと思います。

ゾーニングのはじまり

私達は過去に多くの食中毒事件を経験して来ました。食中毒の原因はさまざまですが、大規模な食中毒事件の中には製造工程の衛生管理の悪さが原因となったものもありました。このような事故が度重なる中、お客様の食品の安全性への意識が大きく高まりました。いかに製造工程の衛生管理を高めるか。その手段として、ゾーニングの考え方が生まれました。また、1990年移行、HACCP(危害分析重要管理点)システムの導入が進む中で、ゾーニングは交差汚染を防ぎ、衛生的な管理を実現するための重要な要素として位置づけられるようになりました。

ゾーニングの主な目的

ゾーニングには次のような目的があります。1つ目は交差汚染の防止です。交差汚染とは汚染されたものから、汚染されていないものに汚染物質(微生物、ウイルスなど)が移行することを意味します。具体的には、生肉を触った手で加熱済みの食品を触ること、汚れた作業着で清潔な区域に入ること、汚染された区域の空気が清潔な区域に流れ込むことなどが挙げられます。2つ目は異物混入の防止です。外部からの虫や異物が侵入しやすいエリアと清潔に保つべきエリアを区別することで、虫や異物の侵入経路をポイントを絞って遮断し、製品への異物混入を防ぎます。3つ目は衛生管理の強化と効率化です。ゾーニングされたエリアごとに最適な清掃・消毒計画を立てることで、より衛生的で効率的な衛生管理が可能となります。特に、虫や異物が発生しやすい汚染区域では、より頻繁により徹底した清掃・消毒を行うことで発生源を排除するなど、リスクに応じて管理手段の強弱をつけることも重要です。4つ目はHACCP導入の支援です。HACCPが求めるリスク管理においては、ゾーニングの考え方が衛生管理の基本となります。ゾーニングを通じて各エリアの管理が明確になり、HACCPの効果的な実施が可能となります。

ゾーニングによるエリア区分

工場内のエリアは、汚染リスクに応じて以下のように分けられます。1つ目は汚染区域です。原材料や包装資材を受け入れる場所など、外部環境と直接接触する場所が汚染区域に相当し、微生物や虫の侵入リスクがあります。2つ目は準清潔区域です。汚染区域と清潔区域の中間に位置し、原材料の洗浄や準備作業を行う場所が挙げられます。3つ目は清潔区域です。最終製品の加工や包装を行う場所であるため、最高の衛生基準が求められる区域です。工場ではその他にも事務所や休憩室など、直接製造に関与しないエリアもありますが、これらは一般区域として区分して管理することがあります。

ゾーニングの設計と管理

ゾーニングを効果的に運用するためには、以下のポイントが重要になります。1つ目は、しっかりと物理的に区分けすることです。そのために、エリア間に壁や扉を設けたり、エアカーテンやシャッターを使用する必要があります。これにより虫や異物の移動を遮断し、清潔な区域への侵入を防ぎます。例えば、原材料の搬入エリアにエアカーテンを設置することで、外部からの虫の侵入を防ぐことができます。2つ目は人の動線管理です。作業者の動線をゾーニングに基づいて明確に管理することで、汚染区域から清潔区域への虫や異物の移動を防ぎます。例えば、汚染区域で作業した作業者がそのまま清潔区域に入ることを禁止することで、作業着や靴などに付着した異物が清潔区域に持ち込まれるのを防ぎます。3つ目は清掃と消毒です。各区域に応じた清掃や消毒の計画を作成し、常に衛生レベルを高い状態に維持することが重要です。

ゾーニングの運用と継続的な改善

食品工場でしっかりとゾーニングをおこない衛生管理レベルを高い状態に保つには、ハード面だけではうまく行きません。特に従業員(ヒト)に対しては、教育訓練によりしっかりとゾーニングの重要性を理解してもらい、各エリアごとの行動基準を明確にする必要があります。人の入れ替わりが多い場合には、新しい従業員に対してしっかりとオリエンテーションをおこない、現場での実践的なトレーニング(OJT)をおこなうことが重要です。次に、定期的な評価と見直しも重要です。ゾーニングにより期待どおりの衛生管理を実現できているか、その効果をチェックした上で必要に応じて見直しを行います。新しい製品の導入や製造プロセスが変更された場合には、特にゾーニングの再評価が重要となります。定期的に内部監査をおこなうことは、管理の妥当性を確認する上でも有効な手段と言えます。また、従業員の意見やフィードバックを積極的に取り入れ、ゾーニングの改善に活用する方法もあります。フィードバックの内容から運用における問題点や改善点を把握し、効果的な対策を講じることが可能になるケースも多いです。

企業に対するプラスの効果

ゾーニングは衛生管理レベルを向上させるための手段ですが、適切な実施により食品工場の経営に対してはプラスの効果をもたらします。最も大きな効果は食品安全性の向上と信頼性の確保です。食品事故は1回でも倒産につながり得る大きなダメージをもたらします。そのようなリスクを回避できることが最も大きな効果と言えます。また、HACCPなどの認証取得においてもゾーニングは重要な要素に位置づけられており、適切なゾーニングを実施することで、HACCP 認証やその他の食品安全に関する認証取得が容易になる場合があります。これらの認証取得は企業が国内外の取引先やお客様に対して、高い食品安全管理レベルをアピールする上で有利に働くため、企業に対するプラスの効果と言えます。また、生産性の向上やコスト削減にも寄与します。とくにコスト面では、品質不具合品の発生防止の観点から、異物混入や品質不良による製品廃棄ロスを減らすことができます。同時に製品回収リスクも低減することができ、大きな経済的損失やブランドイメージに対する深刻なダメージも回避できることがメリットと言えます。

まとめ

食品工場におけるゾーニングは、衛生管理を目的とした「区画分け」を行う手法です。これにより、工場内の各エリアで適切な衛生管理や防虫対策が実施され、食品の安全性向上や管理の効率化を図ることができます。特に、空調設備を利用して区域ごとに空気の流れを制御することや、作業員の動線を一方通行にするなど、ゾーニングのハード面だけでなくソフト面へのアプローチも効果を最大化する上では重要な要素となります。そして、ゾーニングを適切に運用することで、交差汚染や異物混入の防止、コスト削減や信頼性の向上といったプラスの効果が企業にもたらされます。ゾーニングは単なるエリアの区分けではなく、食品の安全性や品質を保証するための戦略とも言えます。ゾーニングの重要性を深く理解し、安全・安心なものづくり環境の整備の参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

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