官能検査についての解説と食品事故防止

食品企業では、官能検査は商品開発や品質保証をおこなう上で重要な役割を果たしています。特に品質保証においては、食品の異味異臭を検知するための重要な検査で、製品の安全性およびお客様の信頼を確保することに繋がります。また、官能検査により品質問題を早期に発見し迅速に対応することで、製品に求められる設計基準を維持することが可能となります。今回は官能検査の種類や特徴について詳しく解説したいと思います。

官能検査とは何か

官能検査は、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を用いて食品の特性を評価する手法です。官能検査により製品の品質やお客様のニーズや反響を直接確認することができます。特に品質保証の観点では、異味異臭を検出するための重要な評価であり、広く検査に用いられています。官能検査には目的に応じて様々な種類や方法があります。

差別試験の種類

差別試験とは、複数のサンプルの中から、他のサンプルと異なるものを識別する官能検査です。人間の五感のうち、特に味覚と嗅覚を用いてわずかな違いを見つけることを目的としています。この試験では、特に食品工場においていつもと同じか違うかを評価することが出来ます。その試験方法にはいくつかのやり方があり、例えば三点比較試験、二点比較試験、三角試験が挙げられます。はじめに、三点比較試験では3つのサンプルを比較します。すなわち、3つのサンプルのうち1つだけ他の2つと異なるサンプルが含まれており、そのわずかな違いを検出します。3つのサンプルを同時に比較するため、より高い感度で違いを検出できるのが特徴となります。次に、二点比較試験では2つのサンプルを比較します。すなわち、2つのサンプルのうち1つだけ異なるサンプルが含まれており、2つのサンプルの差を明確にします。シンプルな試験方法であり、多くの場面で活用できるのが特徴となります。さいごに、三角試験では3つのサンプルを比較します。すなわち、3つのサンプルのうち2つは同一で1つだけ異なるサンプルが含まれており、異なるサンプルを特定します。官能検査をする人(官能パネル)は、どのサンプルが他と異なるかを選択するため、注意深く比較する必要があります。

差別試験のポイント

差別試験では、しっかりと訓練を受けた官能パネルを選定することが重要です。また、サンプルの温度を一定温度に保ち、十分な量を準備する必要があります。目視での確認もするため、無色の透明な容器を使用します(液体の場合はガラスやプラスチックの容器)。また、サンプルはランダムな順序で提示し、静かな環境下で集中しておこなう必要があります。照明にもムラがなく、手元の照度が均一な場所で行います。評価項目を明確にし、官能パネルが評価結果を記入しやすいチェックシートを作成することも重要です。

差別試験の活用例

差別試験は原材料の選定、製造工程の管理、保存期間中の変化をとらえるために行う場合が多いです。まず、原材料の選定では、異なる産地や品種の原材料を比較し、製品品質に最も適したものを選択します。また、製造工程の管理では、異なる製造日、異なる製造ライン、異なる製造工程を経た製品を比較し、製造ロットや工程間のばらつきを把握します。その上で、わずかなにおいや味の変化をとらえることで、つくりこみ品質のばらつきを最小限に抑え、安定した製品品質の確保に繋がります。わずかなにおいや味の違いから異常を早期に発見することで被害を極小化し、原因究明や問題解決を迅速におこなうことに繋がります。保存期間中の変化をとらえることは、時間経過による製品の変化を評価し、最適な賞味期限を設定する上で重要となります。

記述試験の種類

記述試験とは、官能パネルが自分の言葉で、製品の風味や特徴を記述する官能検査です。数値やカテゴリーで評価するのではなく、自由な表現を用いることでより具体的に詳細な情報を集めることができます。記述方法は大きく分けて2種類のやり方があり、自由記述と構造化記述が挙げられます。自由記述では、被験者は感じたままを自由に記述します。被験者の言葉で表現されるためありのままの生の声を確認できます。これにより、これまで気付けなかった新しい発見や予想外の意見が得られる可能性があります。一方で、被験者の表現力によって、情報の質にばらつきが生じる可能性があります。そのため情報の解析が難しく、客観的な比較が難しい場合があります。構造化記述では、被験者は指定された項目(例えば味、香り、食感など)について、具体的な言葉で記述します。得られたデータを定量的に分析することができるため分析が容易で、複数のサンプル間の比較がしやすいのが特徴です。一方、指定された項目以外の情報が得られない可能性があり、被験者の表現が限定されてしまう可能性があります。

記述試験の活用例

記述試験は新製品開発、既存製品の改良、競合製品との比較、製造工程における異常の原因究明のために行う場合が多いです。まず、新製品開発では新しいフレーバーや食感の製品を開発するために、お客様の意見を聞き、商品開発のヒントを得ます。既存製品の改良では、お客様の意見を参考に、既存製品の改善点を見つけます。競合製品との比較では、自社製品と競合製品を比較し、自社製品の優位性や改善点を明らかにします。また、製造工程における異常の原因究明では、異味異臭の原因を特定するために、自由記述を用いて詳細な情報を収集することが有効な場合もあります。

強度測定試験の種類

強度測定試験とは、強度測定試験は、食品の硬さ、粘性、弾性などの物理的な特性を数値化し、客観的に評価する試験です。標準刺激と比較して感覚の強度を数値化するマグニチュード推定法(定量的な差異の評価が可能)、感覚の度合いを「弱」「中」「強」などのカテゴリーで評価し、特性の認識を助けるカテゴリー尺度法などがあります。強度測定試験は製品の品質管理や、新製品開発における食感設計などに活用されます。強度測定試験には様々な種類があり、例えばテクスチャー分析、レオロジー測定、破断強度試験、粘度測定が挙げられます。テクスチャー分析では特殊な測定器(テクスチュアナライザーなど)を用いて、食品に一定の力を加え、そのときの変形量や力を測定します。これにより、食品の硬さ、弾性、粘性、凝集性などを測定し、食感の客観的な評価を行うことができます。食品の食感に関する様々なパラメータを数値化できるため、詳細な分析が可能となります。レオロジー測定では、回転式や振動式のレオメーターを用いて、食品に力を加え、そのときの変形や抵抗を測定します。食品の流動性、粘度、弾性を測定し、加工性や保存安定性を評価することができ、液体やペースト状の食品の特性を詳細に評価できるのが特徴です。破断強度試験は引張試験機や圧縮試験機を用いて、食品に一定の速度で力を加え、破断するまでの力を測定します。これにより、食品の破断するまでの力や変形量を測定し、強度や脆さを評価することができ、食品の強度を直接的に評価できるのが特徴です。さいごに、 粘度測定は粘度計を用いて、食品の抵抗力を測定します。液体やペースト状の食品の粘度を測定し流動性を評価しますが、レオロジー測定とは異なり、粘度のみを測定する場合に用いられます。

強度測定試験の活用例

強度測定試験は品質管理、新製品開発、原材料の評価、加工条件の最適化のために活用される場合が多いです。まず、新製品開発では新しい食感や機能性を有する製品を開発する上で有用です。品質管理では、製品間のばらつきを最小限に抑え、安定した品質の製品を提供するために用いられます。例えば、麺の強度やチョコレートの割れやすさ、食品包装材の強度評価などが挙げられます。原材料の評価では、異なる原材料を用いた場合の製品特性の変化を評価します。加工条件の最適化は、加工条件を変えることで、製品の品質を向上させる評価となります。異なる品種や加工方法の違いにより、食感がどのように変わるかを評価するなどが挙げられます。

官能検査による品質事故防止

官能検査は、製品の品質を評価するだけでなく、品質事故を未然に防ぐための重要な手法です。特に食品工場における分析型官能検査ではわずかな異味異臭も早期に検出し、問題の根本原因を迅速に究明するのに役立ちます。品質不良品が市場に行き渡る前に問題を特定し、品質事故の発生を未然に防ぐことが出来ます。その上では、官能検査の結果についての良否判断基準を明確にすることが重要です。これにより、従業員全員が共通の基準を理解し、それに基づいて日常管理に落とし込むことができます。製品の品質保証をする上で従業員の品質感度に対して一貫性が高まり、責任感が促進されます。

機器分析との併用

これまでヒトの鼻による官能検査は分析機器よりも優れていると言われて来ましたが、近年の分析機器の精度の高まりにより、必要に応じて機器分析と併用することも有用な場合があります。特に差別試験においては、GC-MSなどの機器分析により官能検査結果の裏付けをとることで、品質保証の信用度を上げることに役立ちます。また、近年では電子鼻や電子舌などの機器を用いて、官能検査を自動化しようとする動きもあります。

まとめ

官能検査は食品企業の品質保証において不可欠な手段です。特に、異味異臭の検出によって製品の安全性を守り、お客様の信頼を構築する重要な役割を担っています。差別試験、記述試験、強度測定試験などを通じて、原材料の選定や製造工程の管理に活用されています。これにより製品の微細な違いを検出し、品質問題の早期発見と対策が可能になり、基準の維持が実現します。さらに、GC-MSなどの機器分析と併用することで、官能検査結果の精度と信頼性を高めています。また、電子鼻や電子舌の導入で検査の自動化が進み、効率が向上しています。官能検査は品質問題の未然防止だけでなく、企業の競争力を強化し、持続的成長を支える基盤として機能しています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

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