食品企業における外国人労働者の活用

近年、日本国内の労働者に占める外国人労働者の割合が増加しています。この背景には、少子高齢化による国内労働力の不足、グローバル化による人材の多様化などの様々な要因が挙げられます。今回は、特に食品工場における外国人労働者の受け入れ増加とその活用について、解説したいと思います。

特定技能制度の施行

外国人労働者の増加の最大の理由として、2019年4月に施行された特定技能制度が挙げられます。特定技能制度とは、日本国内で人材不足が深刻な産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とした制度です。2019年4月の導入当初は2024年3月までに最大3万4000人の受入れを予定していましたが、企業ニーズの高まりから予定の2倍を超える8万7200人が受入れられました。2024年4月から2029年3月までの5年間では13万9000人の受け入れが見込まれており、労働力不足の解消や企業の生産性向上への寄与に大きな期待が寄せられています。一方、特定技能制度は計14の産業分野に適用されていますが、そのうち特定技能「飲食料品製造業」は、飲食料品製造に特化した分野であり、酒類を除く様々な業務に対応しています。具体的には、製造ラインでの作業(生産管理)、設備の操作やメンテナンス(設備管理)、製品検査や衛生管理(品質保証)などの幅広い業務が含まれ、食品製造を支える重要な役割を担っています。

外国人労働者受け入れのメリット

外国人労働者の増加により、食品企業は多くのメリットを得ています。特に工場においては、労働力不足の解消が最も大きなメリットとなります。日本は少子高齢化により若年層の労働力不足が深刻な状況にあります。食品工場においては、繁忙期(ピーク時)に一時的に多くの労働力が必要になることもあるため、労働力不足による生産性の低下は非常に深刻です。外国人労働者の活用により必要な人材を確保することで、こうしたピーク時の労働力不足を解消することができるのは、非常に大きなメリットと言えます。また、新たな視点やアイデアが生まれやすくなることもメリットの1つです。外国人労働者は異なる文化や価値観を持ち、多様な視点を持っています。これらの意見を取り入れることで、新製品開発や生産プロセスに新たなアイデアが生まれ、企業の競争力向上に繋がることが期待できます。また、企業のグローバル化を推進する上でも大きなメリットとなります。海外市場への進出や、海外との取引を円滑に進める上では多様な言語を話す人材の存在は不可欠であり、海外市場への展開において有利になることが期待されます。さらに、外国人労働者の雇用により日本人労働者に比べて人件費などのコストを抑え、長期的な経営の安定に繋がることが期待できます。ただし、これについては労働条件や法規制を遵守した上で、検討すべき事項となります。

外国人労働者受け入れの課題や注意点

外国人労働者受け入れには、人手不足解消や多様な人材の確保など多くのメリットがある一方で、いくつかの課題や注意点も存在します。1つ目はコミュニケーションの課題です。労働者の日本語が堪能でない場合、業務指示の伝達やトラブル発生時の対応が難しく、生産性の低下や誤解が生じるおそれがあります。特に異文化間でのコミュニケーションは、言葉だけでなく、価値観や習慣の違いから誤解が生じやすい状況です。食品衛生や品質管理の観点では、これらのコミュニケーションや指示伝達ミスが大きな食品事故の原因にもなり得るため、十分な注意が必要です。2つ目は労働環境の整備です。労働者は誰もが安心して働き、その対価として正当な報酬を得たいという基本的な欲求を持っています。従って、日本の労働基準法を遵守し、外国人労働者に対して適切な労働条件を提供する必要があります。また、住居や医療、教育など、生活に必要な環境を整えることも大切です。国籍や人種による差別は厳禁です。多様な人材が働きやすい環境を整備する必要があります。3つ目は地域社会の受け入れ体制です。とくに今後外国人労働者の増加が予測される中、地域住民との間で摩擦が生じる可能性があります。社会治安への影響も含めて、地域社会とのかかわり方が大切になります。4つ目に受け入れ手続きの複雑さです。外国人労働者の受け入れには、入国管理局への手続きなど、複雑な手続きが必要になります。労働関係法や出入国管理法などが頻繁に変更される可能性があり、企業は常に最新の情報を把握する必要があります。そして5つ目に人材育成です。日本語能力の向上を支援するための教育プログラムや、日本の職場に適応するために必要なスキルを習得させるための教育が必要となります。これら全てをゼロから対応するのは非常に困難であるため、行政機関や専門家からのアドバイスを受けることが重要です。

課題への具体的対策について

外国人労働者の受け入れ状況により、課題や対策が異なります。そのため、基本的なステップとしては現状分析、課題の明確化、対策立案のステップを踏む必要があります。ここでは、上述した受け入れ課題についての対策を説明します。1つ目のコミュニケーションの課題に対しては、日本語だけでなく、外国人労働者の母国語や英語での案内、説明資料の作成など、多言語対応の徹底が重要です。必要に応じて多言語対応の翻訳アプリやツールを導入し、リアルタイムでの翻訳を可能にすることで、コミュニケーションの円滑化を図ります。また、オンライン学習ツールへのアクセス提供など、日本語学習を支援する体制を整えることも有用です。特に食品工場の品質保証の観点では、指示の理解を深め、ミスを減少させるために多言語対応のマニュアルを作成することが重要です。日本語に加え、英語や中国語などで説明を行い、イラストや図を使った視覚的な指示を取り入れることで、理解を促進します。特に、安全に関する事項、作業手順、緊急時の対応など、重要な情報は複数の言語で表示することが効果的です。2つ目の労働環境の整備については、企業が労働基準法の内容を正しく理解し、外国人労働者に対して労働基準法を周知徹底することが重要です。また、労働基準法の遵守とともに、労働災害を防止するために労働安全衛生法に基づいた労働安全や労働衛生管理も重要となります。3つ目の地域社会の受け入れ体制については、例えば地域イベントへの参加や地域住民との交流会を開催することで、地域住民と相互理解を深めることができます。従業員に対しては、差別防止教育を実施し、多様な文化への理解を深めることも重要です。4つ目の受け入れ手続きについては、労働関係法や出入国管理法などの法律をゼロから理解するのは難しい側面もあるため、弁護士や社労士、行政書士などの専門家のアドバイスを活用することも必要になります。それにより、法改正や社会情勢の変化に対応しながら、制度を定期的に見直し改善することができます。外国人労働者を守るために、気軽に相談できる窓口を設置し、問題解決を支援することも大切です。5つ目の人材育成の観点では、日本語能力や日本の職場環境に適応するためのスキルアップ研修や教育プログラムを提供する機会を提供します。また、外国人労働者がどのようなキャリアを望むかをヒアリングし、キャリアパスを設計することもモチベーション向上に有用です。全ての課題に対して従業員全員が理解を深め、共に働くという意識を持つことが重要となります。

まとめ

日本国内の企業、特に食品工場を持つ企業においては、特定技能「飲食料品製造業」制度による外国人労働者の活用機会が今後も増加することが見込まれます。食品工場にとっては、繁忙期の労働力不足解消や生産性向上に対する新たなチャンスでもある一方で、これまでにない変化への適応が求められています。従って、言葉や文化の壁を克服し、外国人労働者が力を発揮できる職場を作ることが大切です。例えば、コミュニケーションを図るためのツールの導入や多言語マニュアルの作成、視覚的に理解しやすい文書の作成が求められます。また、多文化理解のための研修や日本語教育、外国人向けのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の強化が必要です。品質や衛生管理の観点からは、HACCP(危害分析重要管理点)を推進することも食品事故を未然に防止する上で有効な手段となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP
MENU
お問合せ

TEL: 070-7666-4498

月 - 金 9:00 - 18:00(営業・セールス電話は固くお断り致します)