食品製造における異物問題について

食品製造において異物に関する不具合やトラブルは、お客様の安全と企業の信頼に大きな影響を及ぼします。従って、製造品に異物が混入することをしっかりと防ぎ、品質を保証することは食品製造業者にとっての使命です。異物混入を防ぐためには、何か1つのルールを守れば良いというものではなく、包括的な対策が必要になります。今回の記事では、異物とは何かを説明した上で、その発生原因や混入防止策をについて解説します。

異物とは何か

異物とは、「食品製造において意図せずに混入した、本来含まれてはならない物質」のことを指します。英語ではForein Material(外国(外)からの物質)とも表現され、アルファベットでFMと表現されることもあります。その種類は様々ですが、例えば製造工程でネジがなくなってしまい製品に混入したり、従業員の毛髪が製品に入ってしまい、製品回収するトラブルをニュースで見たことがある方も多いのではないでしょうか。このような事態になった場合の経済的損失は非常に大きなものとなります。さらに、食品の安全性と品質への信頼性を大きく損ね、企業のブランドイメージにも深刻な影響を与える場合があります。

異物の種類と特徴

金属類

金属類には、ステンレス(SUS)、鉄、アルミニウム、銅などが挙げられます。SUSはSteel Use Stainlessの略で、鉄にクロムを一定量以上加えることで、錆びにくく耐食性に優れた合金鋼です。含まれる元素の種類や割合によって、オーステナイト系のSUS304、SUS316、フェライト系のSUS430、マルテンサイト系のSUS410などがあります。いずれも高強度で耐錆性があり、特にSUS304やSUS316は食品加工機器に多用されています。鉄は、私たちの生活に身近な金属であり、様々な部品に使われています。他の多くの金属と比較して強度が高いですが、空気中の水分や酸素と反応して酸化し、錆が発生しやすいという欠点もあります。鉄は磁性を持つため、金属検出器などの磁力選別機で検出が可能です。また、アルミニウムは私たちの生活に身近な金属であり、その軽さと耐食性から、様々な用途で使用されています。延性や展性が高いため様々な形状に加工しやすい特徴を持ち、磁性はありません。銅は古くから人類が利用してきた金属の一つです。導電性が高いため、電気を通す必要がある部品に多く利用されています。熱伝導性も高いため調理器具にも多く使用されていますが、酸化による異臭発生には注意が必要です。

プラスチック類

プラスチック類には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられます。ポリエチレンは私たちの身の回りで非常に多く見かけるプラスチックの一種で、食品包装や日用品など、幅広い分野で使用されています。原料となるエチレンから比較的安価に製造でき、射出成形やブロー成形などの様々な成形方法に対応できるのが特徴です。ポリプロピレンはポリエチレンと並んで非常に一般的なプラスチックの一種です。熱に強く、高温でも変形しにくいという特徴があります。また、酸やアルカリなどの多くの薬品に対して耐性があり、腐食しにくいという特徴があります。ポリスチレンは透明度が高く、光を透過しやすいのが特徴です。電気を通しにくいため、電気絶縁材として使用される他、発泡剤を加えることで、発泡スチロールのような発泡体を作ることができます。食品異物の観点からは、強度に注意が必要です。ポリ塩化ビニルは耐候性、耐薬品性、耐摩耗性に優れており、長期間使用することができます。可塑剤の量を調整することで、硬質から軟質まで幅広い硬さの製品を作ることができるのが特徴で、ホースやシートに使われます。

ゴム類

ゴム類は大きく天然ゴムと合成ゴムに分けられます。天然ゴムはゴムの木から採取される樹液(ラテックス)を加工して作られる自然由来のゴムです。ゴム特有の弾力性があり、伸び縮みを繰り返しても元の形状に戻ろうとする性質を持っています。柔軟性が高く弾力があるため、パッキンや手袋に使用されますが、酸化や熱によって劣化しやすいため注意が必要です。合成ゴムは天然ゴムの不足や性能の限界を補うため、人工的に開発されたゴムの総称です。ニトリルゴム(NBRやH-NBR)、シリコンゴム、フッ素ゴム(FKMやテフロン)、スチレン-ブタジエンゴムなどが挙げられ、いずれも耐熱性、耐薬品性、耐油性が高いのが特徴です。食品製造においては設備のシール性を高める用途など、ならない素材となっています

ガラス類

ガラス類にはソーダガラスやホウケイ酸ガラスが挙げられます。ソーダガラスは安価で大量生産が可能かつ透明であるため、窓ガラスや瓶、食器など、様々な製品に使用されています。割れた際には破片が鋭利なため、注意が必要です。ホウケイ酸ガラスはソーダガラスとは異なり、ホウ酸を多く含んでいることが特徴です。高い透明度を持ちますが、一般的なガラスよりも強度が高く、破損しにくいという特徴があります。そのため、実験器具や調理器具などに用いられています。

その他

食品製造において注意が必要な異物は、その他に木材、繊維、塗料、毛髪、虫などが挙げられます。特に毛髪や虫については衛生管理や防虫管理の徹底が求められます。

食品への影響と異物の特性

形状は鋭利なものである場合、お客様の怪我に繋がります。また、大きな異物の場合も同様に飲食時の怪我のリスクが高まります。金属の場合、金属検出器(磁力選別機)で検出可能ですが、微小な異物の場合には検出が難しい場合があります。また、ガラスはX線検査機で検出可能ですが、プラスチックやゴムは検査機での検出が難しい場合があります。水に浮くものは浮遊選別(食品中の異物を除去する技術(金属片、骨など))で除去することが難しくなります。

異物混入の原因

食品製造における異物混入の原因は、製造工程の様々な段階で発生する可能性がありますが、主な原因としては、機械的要因、人的要因、環境要因の3つに分類されます。はじめに、機械的要因は機会(設備)が原因で異物が混入するケースです。設備の破損や摩耗による金属片の発生、ベルトやパッキンの破片、容器の破損によるガラス片、設備の潤滑油の混入などが挙げられます。人的要因は作業者のミスや不注意によって異物が混入するケースです。髪の毛、爪、アクセサリー、汗や化粧品などが挙げられます。これらは作業手順の誤り(理解不足)が原因の場合もありますが、異物混入防止対策の不徹底や、衛生管理の不徹底(手洗い不足、手指消毒の不徹底、作業着の汚れ)などが原因として挙げられます。さいごに、環境要因として工場の環境や外部からの要因によって異物が混入するケースが挙げられます。空調設備のフィルター目詰まりによる空気中の粉じん、建屋外からの虫の侵入、包資材の汚染などがあります。

異物混入の対策

食品異物トラブルの対策は、大きく分けて機械的対策、人的対策、環境対策の3つに分類できます。機械的対策は、機械(設備)に起因する異物混入を防ぐための対策です。その基本は設備の定期点検・保守による設備の摩耗や破損防止です。また、定期点検や保守により人が設備をしっかり確認することで、異常の早期発見と対策を図り、異物混入のリスクを低減することができます。また、異物検出装置の導入も有効です。金属探知機、X線検査機、またはレーザー異物検出装置などを導入し製品中の異物を検出することで、発生防止だけでなく流出防止の観点から対策を講じます。空気中の粉じんや異物を捕集するためのフィルターを設置、製品の製造ラインへの磁石の設置による金属片の吸着も有効な場合があります。人的対策としては、従業員教育、衛生管理、対応マニュアルの作成が挙げられます。従業員教育では、異物混入の原因や対策に関する教育を定期的に実施し、従業員の意識向上を図ります。衛生管理では、入場時の手洗い、うがい、手指消毒、作業着の着用など、衛生管理の徹底を図ります。対応マニュアルの作成では、異物混入が発生した場合の対応手順を明確化し、迅速な対応を可能にします。環境対策では、工場の環境整備によって、異物混入のリスクを低減します。作業場内外の清掃を徹底し、定期的な防虫対策(害虫駆除など)を実施します。包装材の保管や使用管理も徹底し、包装材からの異物混入を防ぎます。

まとめ

今後、食品業界ではさらなる技術革新が期待され、新たな異物検出・除去システムの導入が進むと考えられます。例えば、AIを活用した異物検出技術や、より高度なセンサーを備えた機器の導入により、異物混入リスクをさらに低減できる可能性があります。企業はこれらの技術を適切に採用し、製造プロセスに組み込むことで、一層安全性の高い食品を提供し続ける努力を続けることが大切になります。異物問題の徹底した管理の参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

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