カビの特徴と管理ポイントについて

カビは私達の生活環境に非常に身近な存在です。食品を保管している間、知らないうちにカビが生えてしまい、廃棄せざるを得なくなった経験がある方もいると思います。一方で、カビは食品の品質を損なうだけでなく、健康に対しても深刻な影響を及ぼすおそれがあります。今回は食品製造におけるカビの危険性やその管理ポイントについて解説したいと思います。

カビとは何か

カビは、キノコや酵母と同じ真菌類に属する微生物の一種です。肉眼では見えない菌糸(きんし)と呼ばれる糸状のもので構成されており、それがたくさん集まることで肉眼で見えるようになります。このたくさんの集まりをコロニーと言います。カビには不完全(ふかんぜん)菌類、子嚢(しのう)菌類、担子(たんし)菌類などあり、いずれも胞子(ほうし)を形成して増殖するのが特徴です。胞子は植物で言うと種のようなもので、適度な温度と湿度、栄養源によって発芽し、菌糸を伸ばして成長します。胞子の大きさは一般的に2~10マイクロメートルの直径と非常に小さく、乾燥や高温、低温といった厳しい環境下でも生存できるのが特徴です。青カビや赤カビなどの色は胞子の色によって決まると言われています。

カビの生育条件について

カビの生育に不可欠な要素について説明します。1つ目は水分です。カビは湿度が高い場所を好みます。特に湿度が60%を超えると胞子が発芽し、菌糸が成長しやすくなります。2つ目は温度です。カビの種類にもよりますが、一般的には15~30℃が至適温度と言われています。3つ目は酸素です。ほとんどのカビは好気性であり、生育に酸素を必要とします。4つ目はpHです。pHとは酸性、中性、アルカリ性を15段階の数値で表したものですが、カビは弱酸性の環境を好む傾向にあります。5つ目は栄養源です。カビは食品、木材、紙、皮革などの有機物を栄養源として成長します。そのため、食品を取り扱う際には食品そのものだけでなく、包装資材の取り扱いにも注意が必要となります。

カビ毒の危険性について

カビの発生は、食品の品質を損なうだけでなく、健康に対して悪影響を引き起こすおそれがあります。例えばアレルギー反応を引き起こしたり、呼吸器系の疾患を悪化させたり、カビ毒を生成して発がんなど重篤な健康被害をもたらすものもあります。以下に代表的なカビ毒について解説します。

アフラトキシン

アフラトキシンは、アスペルギルス属などのカビが産生する強力なカビ毒です。おもに穀物、ナッツ類、乾燥果実などに汚染されやすく、自然界で最も強力な発がん性物質の一つとして知られています。特に肝臓に対する毒性が強く、肝臓ガンのリスクを大幅に高めます。遺伝子(DNA)を損傷させ、遺伝子変異を引き起こすとも言われています。また熱にも強いため一般的な調理法では完全に分解されず、食品に汚染されたまま残存するおそれがあります。原料となる穀物やナッツ類を収穫後の貯蔵・輸送条件によって汚染が拡大するリスクがあるため、注意が必要です。

オクラトキシンA

オクラトキシンAは、アスペルギルス属やペニシリウム属などのカビが産生するカビ毒の一種です。特に穀物、コーヒー豆、ワインなど、さまざまな食品で汚染リスクがあります。オクラトキシンAは、腎臓に強い毒性を持つことが知られており、長期間の摂取により腎臓機能の低下や腎臓ガンのリスクが高まります。アフラトキシン同様に、穀物、コーヒー豆などの原料収穫後における貯蔵・保管条件が大切な管理ポイントとなります。

パツリン

パツリンはペニシリウム属やアスペルギルス属などのカビが産生するカビ毒の一種です。特にリンゴが腐敗する際に発生するカビによって産生されることが多く、リンゴジュースなどのリンゴ製品に汚染されることがあります。パツリンは神経毒性や免疫抑制作用の他、発がん性のリスクも指摘されています。熱にも強く、一般的な食品加工の加熱処理では完全に分解されません。リンゴ収穫後の丁寧な取り扱いや保存により、いかにカビを発生させないかがポイントとなります。

カビ発生を防ぐための管理ポイント

食品衛生の観点から、カビの発生を防ぐには、カビが生育しにくい環境をつくる必要があります。カビが生育しにくい環境をつくるには、いくつかの管理ポイントをおさえて遵守することが重要です。以下に管理ポイントについて説明します。
 

原材料の管理

原材料の受入れ時には、官能評価をしっかりとおこない、色や香味に問題ないことを評価します。これを、受入れ評価と言います。また、受入れ後は保管庫の温度や湿度を適切に管理する必要があります。さらに先入れ先出しルールの徹底により、古い原材料から順に使用して在庫期間を短くすることも、カビの発生防止に役立ちます。

温度・湿度の管理

カビの生育には、温度と湿度が大きく影響します。特に高温多湿な環境はカビの生育に有利な条件となるため、製造場内の温度・湿度を定期的に記録し、監視することが必要です。また、空調設備は温度や湿度を調整する上で有用ですが、空調の点検や清掃が不十分な場合、空気中のカビ胞子を拡散させるおそれもあります。空調設備そのものも結露によりカビが発生しやすい設備であるため、定期的な点検・清掃を行い、良好な状態を維持することが大切です。

室内の清浄度管理

製造設備、壁、床、天井などが不衛生な状態は、カビの発生に有利な条件と言えます。したがって、工場内のあらゆる箇所を定期的に清掃し、カビの栄養源となる有機物を除去する必要があります。カビに対して効果の高い洗浄剤(次亜塩素酸など)を選び、適切な濃度で使用することも有用ですが、食品製造場で使用する場合には工程使用材としての安全管理も重要です。排水溝や排水マスは、カビが繁殖しやすい場所と言えるため、定期清掃の頻度を高めるなど管理方法の工夫が必要となります。

従業員の衛生管理

最も基本的なことですが、従業員の手洗いの徹底や作業着の衛生管理も大切です。従業員に対してカビの発生メカニズムや衛生管理のポイントについて教育を行い、品質意識を高めることも大切になります。

ひとまわり点検

定期的に工場内をひとまわり点検し、カビの発生がないか目視で確認することも有用です。管理できていると思っていた場所が盲点になっていることもあり得るためです。ヒトが五感を働かせて気付きを得ることは、従業員の衛生意識を高める上でも有効なアクションです。エアサンプラーなどを使用して、空気中のカビについて定期的にモニタリングすることも衛生管理の観点から大切なポイントとなります。

まとめ

このように、カビは私たちの生活環境に身近な存在ですが、食品製造現場では絶対に発生させないことが重要となります。カビが産生するカビ毒は目に見えませんが、加熱しても分解されずに残存するものもあります。また、発がん性など重篤な健康被害をもたらすものも知られています。カビに対して正しい知識を持ち、食品衛生の観点からどのようなポイントをおさえる必要があるのか、理解することが重要となります。原材料の管理、温湿度の適切な管理、清浄度の確保、作業者の衛生管理、ひとまわり点検による定期モニタリングなど、管理すべきポイントの理解につながれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

増田祐一

1980年京都府舞鶴市生まれ。

飲料メーカーの製造工場で品質保証業務を10年間経験する中で、品質トラブルをなくすための仕組みの整備と人材育成の重要性を認識する。

得意分野は品質コンサルティング、人材育成および労働衛生コンサルティングによる労働環境改善。

技術士(農業・食品)、労働衛生コンサルタント。

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