2007年、食品業界で偽装が次々に発覚しました。賞味期限の改ざん、産地の偽装、食肉の偽装。同じ年に問題が明るみに出ながら、その後の運命は分かれています。再起して過去最高益を出した会社もあれば、そのまま消えた会社もあります。偽装の内容が、特に悪質だったから消えたのでしょうか。調べてみると、そうとは言い切れません。その差は、どこにあったのか。中小の食品企業にとって、ここは他人事ではありません。
なぜ「事故そのもの」では潰れないのか
食品の品質トラブルが起きたとき、経営者がまず恐れるのは回収費用です。しかし実際には、回収費用そのもので会社が傾くことは多くありません。痛いのは、その後に起きることです。取引先の品質監査が入る。新規の商談が止まる。既存の取引条件が見直される。採用の応募が減る。銀行の見る目が変わる。これらは一度に来ません。数か月かけて、じわじわと効いてきます。そして、この「その後」の大きさを決めるのが、事故そのものではなく、事故が発覚したあとの振る舞いです。
生き残った会社
石屋製菓|操業停止から、過去最高益へ
2007年8月、「白い恋人」の賞味期限が改ざんされていたことが発覚しました。11年前から、期限を1〜2か月延ばしていたとされます。あわせて、アイスクリームから大腸菌群、バウムクーヘンから黄色ブドウ球菌も検出されました。北海道庁は、管理体制の甘さと隠蔽体質を重く見て、操業停止処分を下します。そして、主力商品の製造が止まりました。
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一方で同社はここから、経営陣を一新します。外部委員会を設置し、社内の実態を洗い出しました。そして販売再開のとき、新聞に広告を出しています。そこに書かれていたのは謝罪の言葉だけではありませんでした。食の安全のために何を変えたのかが、具体的に明記されていました。販売再開直後は、取扱店で売り切れが続出します。2009年4月期には、過去最高となる連結売上高93億4,100万円を記録しました。処分を受けた会社が、2年で最高益に届いています。
赤福・不二家
同じ2007年、赤福は消費期限の表示をめぐる問題で営業禁止処分を受けました。不二家も、期限切れ原料の使用が発覚し、全工場が停止しています。どちらも長い歴史を持ち、地域や世代に根ざしたブランドでした。それだけに、裏切られたという受け止め方も強かったはずです。それでも両社は、経営陣が責任を取り、外部の目を入れ、事実を公表しました。そして、いずれも現在まで事業を続けています。
消えた会社
船場吉兆|小出しに出てきた
まず、産地の偽装が発覚しました。会社は謝罪します。次に、賞味期限の引き伸ばしが出てきました。また謝罪します。そして、客の食べ残しの使い回しが明らかになりました。問題が一つ出るたびに、説明が変わっていきます。「これで全部です」と言った翌週に、新しい事実が報じられる。それが繰り返されました。そして同社は廃業に至ってしまいます。このとき失われたのは、食材の信頼だけではありませんでした。「この会社の言うことは信用できない」という評価です。食品業界において、これは事業の前提が消えたことを意味します。
ミートホープ|取引停止の連鎖
2007年、食肉の偽装が発覚しました。きっかけは、社内からの告発だったとされています。返品と取引中止が相次ぎ、操業は止まりました。負債は約6億円に上ったとされ、破産に至ります。ここで注目すべきなのは、行政処分よりも先に取引先が離れたことです。中小企業の取引は、少数の相手に依存していることが少なくありません。上位数社で売上の大半を占めている、という会社は珍しくないはずです。その相手が一斉に引いた時点で、事業は続けられなくなります。資金繰りは、行政の判断を待ってくれません。
分かれ目は「一度で全部出したか」
生き残った会社と、消えた会社。偽装の内容や悪質さで、きれいに分かれているわけではありません。差が出たのは、発覚してからの出し方でした。生き残った会社は、調べ切ってから、一度で全部出しています。経営陣を替え、外部の目を入れ、処分を受け入れました。そのうえで「何を変えたか」を説明しています。
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一方で、消えた会社は小出しになりました。一度謝ったあとに、また新しい事実が出てくる。それが繰り返されたとき、信頼は決定的に失われます。一度目の謝罪は、受け入れてもらえます。二度目は、もう聞いてもらえません。
一度で全部出すには、調べ切る力が要る
「隠さずに出しましょう」と言うのは簡単です。しかし現場に立つと、これは精神論では実行できません。出そうにも、何が起きたのか分からないからです。異物が1本見つかったとして、それが何なのか、どこから来たのか、他のロットにもあるのか。これが分からなければ、「全部出す」ことはできません。分からないまま「これで全部です」と言えば、あとから追加で出てきます。船場吉兆と同じ道です。
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つまり、公表の誠実さは、原因究明の能力に支えられています。異物の材質を特定できるか。混入の経路を工程から追えるか。影響範囲をロットで切れるか。記録がそこまで残っているか。ここが弱い会社は、誠実であろうとしても、結果として小出しになります。平時に整えておくべきなのは、謝罪の文面ではありません。調べられる仕組みのほうです。
悪い情報が上がってくる職場か
もう一つ、見落とされやすい論点があります。ミートホープの偽装は、社内からの告発によって表に出たとされています。つまり、社内の誰かは知っていました。問題は、その情報が経営者のところまで上がらなかったことです。現場が異常に気づいても、言えない職場があります。言うと自分の責任になる。
言っても「止めるな」と言われる。過去に指摘した人が冷遇された。そもそも忙しくて、それどころではない。
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こうした職場では、悪い情報が社内で止まります。そして止まった情報は、消えるのではなく、外に出ます。内部告発、SNS、お客様相談室。経営者が最後に知る、という順番になります。品質の問題は、突き詰めると人と職場の問題です。現場が声を上げられる状態にあるかどうかが、そのまま初動の速さに直結します。
中小企業には、後ろ盾がありません
ここまで見てきた会社の多くは、名の知れた企業です。大手には、再編や資本提携という道が残されています。親会社があり、グループがあり、雇用を引き受ける先があります。不二家が現在も事業を続けているのは、その一例です。
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一方で、中小の食品企業には、それがありません。取引先が離れれば、そのまま資金繰りが止まります。支えてくれるグループも、引き受けてくれる親会社もありません。だからこそ、規模が小さい会社ほど、
「起きたことを、調べ切って、一度で出す」体制を平時に作っておく必要があります。何かが起きてから考えるのでは、間に合いません。
平時に決めておきたい5つのこと
大がかりな制度は要りません。決めておくのは次の5つです。一つ目は、誰が判断するかです。夜間や休日に一報が入ったとき、誰が回収の判断をするのか。ここが決まっていないと、初動で必ず時間を失います。二つ目は、何をもって公表するかです。健康被害のおそれがある場合、法令上の届出が必要な場合、取引先への連絡が必要な場合。基準を先に決めておきます。
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三つ目は、どこまで遡れるかです。ロット単位で原料と工程と出荷先をたどれるか。実際に一度、机上で追ってみてください。抜けが見つかります。四つ目は、調べられる体制があるかです。異物の材質を判別できるか、外部に出すなら誰に、何日で出るか。連絡先を平時に押さえておきます。五つ目は、現場が言える状態かです。「おかしい」と思ったときに、誰に、どう伝えるのか。言った人が損をしない扱いになっているか。このうち三つ目と四つ目は品質の話、五つ目は職場の話です。そして実際の事故では、この両方が同時に必要になります。
まとめ
2007年には、多くの食品企業で偽装が発覚しました。一方で、同じ年に発覚しながら、再起した会社と廃業した会社があります。分かれ目は偽装の内容ではなく、発覚後の出し方でした。一度で全部出した会社は残り、小出しになった会社は消えました。一度で全部出すには、原因を調べ切る力が要ります。そして、現場の情報が上がってくる職場であることが前提になります中小企業ほど、この体制を平時から準備しておく必要があるのです。
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